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Monday, February 17, 2020
武漢の都市封鎖を招いた新型肺炎と全国人民代表大会(3 月)を控える中国
梅原直樹 Naoki UMEHARA

中国の湖北省武漢市で昨年 12 月に原因不明の肺炎が発生し、後にその原因は新型コ ロナウィルス(2019-nCoV)によるものであると断定された.年明け後、この新型ウィ ルスによる感染者は、国内外に広がりを見せており、いまだ終息の予想はできない.中 国における感染者数は、2 月 16 日 24 時現在で 7 万人を越え、死者は 1770 人に達した. 日本でも 2 月 13 日に初の感染者の死亡事例が確認された.

昨年 12 月、武漢で勤務する医師が、この肺炎は重症急性呼吸器症候群(SARS: Severe Acute Respiratory Syndrome)ではないかと同業の医師仲間に警告を発したが、警察によ りデマの流布とされ、処罰を受けた.これにより、医療現場からの警告の声や患者数に 関する正確な情報は一般国民には伝わらなくなり、正しい予防措置がとられないまま感 染症は武漢市内や湖北省に蔓延、それが国内の他都市、さらに海外にまで広がる事態と なった.1 月 20 日になり事の重大さを認識した共産党中央は、23 日には 1 千万都市で ある武漢市の封鎖という異例の措置にでた.市民は今も市内に閉じ込められ、湖北省の 他都市も類似した状況に置かれている.

本年の中国の春節休暇は、1 月 30 日に終了する予定であった.しかし、新型コロナウ ィルスの感染症対応のために、休暇明けの業務再開は 2 月 10 日に持ち越された.この 間、国内では都市間の人の移動を制限し、市内移動も検温実施など管理徹底が図られた. 業務再開はリスク管理を行いながら、慎重に進められている.こうした状況をみると、 経済活動の正常化にはさらに時間を要するとみられる.また、中部地域に位置する武漢 は、自動車産業などの製造業に加えて交通の要衝にあたるため、中国全体の物流におい て重要な位置を占めている.武漢の経済活動が停滞するとアジア経済の成長にも暗い影 を投げかける.

中国人民銀行(中央銀行)や財政部等の官庁は、中小企業向け低利融資や減税等の財 政措置により景気下支えをする構えだ.しかし、2003 年の SARS が収束するのが 7 月 までかかったことを考えると、夏までに完全な正常化が実現すれば十分順調と言えるの かもしれない.

中国本土に拠点を持つ民間シンクタンクは、感染症が 2 月 9 日にピークを迎える前提 ei2020.6 2 で、2020 年第 1 四半期の経済成長率は、前年比 5%増を越えないとみており、通年では 0.5-1.2%ポイント、経済成長率を押し下げると予測していた1.しかし、感染のピーク アウト時期の予測は後ろ倒しにされており、実際はこれより悪いシナリオを想定する必 要がある.3 月初旬に開催予定の全国人民代表大会において武漢発の感染症が中国経済 に与える影響がどのように評価されるかが注目される.

Sourced from: https://www.iima.or.jp/docs/column/2020/ei2020.6.pdf

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